アビジャンという街の名前を聞いた事があるだろうか?アフリカ好きや地理マニアでないかぎり、ほとんど知らないはずだ。この街はコートジボワールの首都。これまた、どんな国なのか?この国はアフリカの西部にある。主な輸出はカカオ。サッカー好きなら必ず知っていると言っても過言ではないほどの強豪国。公用語はフランス語。この国の首都アビジャンは、非常に都市化が進んでいる。ヨーロッパの街を見ているようだ。そこまでいかないまでも、これがアフリカにある街だとはにわかに信じ難い。
そんな近代都市アビジャンで面白い経験をした。思わず「そっち?」と言わざるを得ない瞬間であった。
その日は、アビジャンにある、リベリア大使館に向かっていた。その道中で、あることを思い出す。「あ、写真持ってないわ」そう、大使館でビザの申請をするには写真が必要なのだ。撮影してくれるような場所が近くにあったら幸せなのだが、と思ったそのとき、ちょうど道の向かいに写真が撮れそうなボックスがあるではないか。それは、ちょうど日本にある証明書写真をとるための機械そのものである。そこに直行すると、どこからか一人の男が歩いて来た。その手には、サンプルらしき写真が。「いいかんじの写真だ。ひとつのシートが縦横に区切られて、日本で入手できるような仕組みになっている」すぐさま、買いますと伝えた。
言われた通りにボックスの中に入る。イスに座り、入り口に付けられたカーテンを閉めようとすると、その男が私の手を止めた。どうやらカーテンは開けたま まにしなければならないらしい。「まあいいでしょう」そう思いながら、正面のカメラを見つめたまま、姿勢をただしていると、その男は信じられない一言を口 にした。「こっちを向いてくれ」
全く状況が把握できなかった。もしかしたら、服のよれ具合でも直してくれるのかもしれないと思いながら、彼の方を向く。すると、彼は、中腰になってカメラを構え始めた。デジタルカメラを持った男を凝視しながら、私は思った。「そっち?」どうやら、ボックスの中のレンズは一切使わず、外に立つ男の方を向いて、デジカメで撮影をするらしい。
笑いをこらえることのできない私を気にも止めず、男はカシャカシャとシャッターをきり続けた。
写真を撮り終えると、ボックスの奥の方からコードを引っ張り出し、デジカメ本体と繋げて何やら操作しはじめた。
次の瞬間コトンッという音とともに、プリントされた写真がボックスから落ちて来たのだ。すごい。きっとボックスのレンズの部分が壊れて動かなくなってしまったのだろう。それをデジカメで代用するなんて、なんたるリユース。
プリントアウトされた写真を確認すると、そこには満面の笑みを浮かべた私。こんなんじゃ証明写真には使えないね、という一言はそっと胸にしまった。こんないい表情を引き出すカメラマン、中々いない。彼は最高のカメラマンかもしれない。